いわき市でも浮体式洋上風力発電の実証実験が始まりました。これは国の予算で3基建設されるもので、今年から来年にかけて、浮体式洋上風力発電にあたっての技術的課題の認識や新技術の開発を行おうとするものです。
<浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業は、コチラ>
http://www.mikito.biz/archives/29704026.html

ただ、実験だけで終わらせては、いわき市への経済波及効果はほとんどありません。なぜなら実験のための設備は全て東京・神戸で製作され、いわきでは小名浜での最終点検・設置作業のみだからです。当然、これだけでは、地元への産業波及効果は見込めません。実証実験の真の目的は技術的課題を克服し、商用化にこぎつけ、風力発電を地場産業として育成していくことです。そのための道筋は容易ではありませんが、世界を見渡すと、洋上風力発電の開発・製造・出荷の拠点として成功している都市があります。それがドイツ北部にあるブレーマーハーフェン港(以下、BH港)です。なお、ブレーマーハーフェン市は人口114,000人、十分な水深を持つ港があることから、船舶関連や魚加工産業、観光産業が中心の街です。桟橋にはクラシカルな帆船が係留され、ノスタルジーを感じる港です。

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こちらでは強風が吹き荒れる北海洋上の沖合10-70km、水深20-50mくらいの地点に、着床型(固定)の支柱を建てた上でその上に風力タービンを設置する、いわゆる「着床式」が採用されています。その意味では世界にあまり例がない福島の「浮体式」洋上風力発電とは、厳密には異なるのですが、洋上風力発電の産業集積という点では、かなりの部分が共通するはずです。洋上の風力タービンは沖合いに設置されるので、その大きさや騒音が問題とならず、目立たないという利点があります。また陸地より水面の方が平坦であるため、平均の風速も一般に洋上の方が高く、設備利用効率は陸上の場合より遥かに高いといわれています。

BH港が風力発電の基地となった要因には、過去の歴史があります。ブレーマーハーフェンはもともと海運業の街であり、地域経済は伝統的に常に、船舶・造船業、漁業に依存してきました。第二次世界大戦以降、ブレーマーハーフェンは在独米軍の物流拠点でもあったため、多くの米兵とその家族がこの街に居住し、経済的な面も含めこの街に貢献してきましたが、1989年にベルリンの壁が崩壊し、冷戦が終わりを迎えると、米軍基地はその役割を終え去ってしまいました。 同時に、ブレーマーハーフェンの産業の基盤であった造船業も、アジアや東欧の造船所との競争の激化により、造船所は閉鎖され雇用が失われ、深刻な不況に見舞われました。
 
深刻な不況と失業に直面して、2001 年以降に、港湾都市という強みと弱みを分析し、最終的にはこの都市の総合的な港湾技術、ノウハウ、労働力などの強みを活かすべく、造船・重機製品の設計・生産拠点として特化することを目指すこととしました。その中には、再生可能エネルギー産業の拠点となることも含まれており、再生可能エネルギーの中でも、特に洋上風力発電に焦点を当てることになったわけです。 
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特に関心があるのは、港への産業集積を一から始めるにあたって、まず最初にどんな課題があって、どのように克服していったか、どのようにしてパートナー探し、港湾整備、工業用地開発、工場誘致等を行ったかです。

まずは、港湾整備、工業用地開発、工場誘致を進めたの経済振興公社BIS社にお邪魔して、エンジニアのDr. Matias Grabsからヒアリングを行いました。BISはブレーマーハーフェン市が75%、ブレーメン州が25%を出資している開発会社で、BH港の洋上風力発電産業の集積を担っている会社です。

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Dr. Matias Grabsによれば、ブレーマーハーフェン港が、風力発電の開発・製造・出荷拠点となった手順は、以下のとおりで、これは非常に参考になると思います。
1. Regional Network(400社近い、風力発電産業の民間企業同士のネットワーク作り)
2. Location of Protyps(試作機の製作)
3. Development of Infrastructure(積出港としてのインフラ整備)
4. Cost of Port Infrastructure for Tranship(積込コストの検討)
5. Orientation of Support Programme(公的機関からの支援策)
6. Research and Development Infrastructure(研究開発のためのインフラ整備)
7. Political Support(政治の配慮)
8. Marketing(企業誘致のセールス活動)

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(以下、グラーブズ氏からのヒアリングメモ)
BH港は、軍の基地跡として広大な港湾用地が残されており、どのような用途に使用すべきかが課題であった。1999年から開発を開始し、それまでの漁業・魚加工業中心の産業から風力発電の集積基地への転換を図った。その背景には、漁港の機能が他の町へ移転できたことがある。2002年に土地開発の将来像をCGシュミレーションしたが、当時はどんな許可が必要なのかさえも不明で手探り状態だった。その後、RE Power Systems AG, AREVA Wind GmbH, Weser Wind GmbH, Power Blade等の会社を誘致することができ、2012年に第1期の開発が終了した。風力発電関連に携わる企業は、Windenergie Agentur Bremerhaven/Bremen (WAB) という会を2002年に設立し、現在は350社が加盟し、定期的にカンファレンス等を開いている。

ブレーメン州はこれまで、100百万ユーロをインフラ整備・開発投資を実施し、今後さらに200百万ユーロを投資計画中である。主な投資内容は、既存の港湾の改修、旧自動車倉庫跡地の整備、風車部品搬出の線路敷設、港湾周辺の土地の購入、工場団地としての整備 ・大学・研究所の設置等とのこと。 これらの開発費用は立地した企業からの20年間の土地賃料で長期的に回収したいと考えている。

今後は、風車がより大型化することが想定されるため、北海に面した場所に新しく港湾 Heavy Load Platformを持つOTB (Offshore Terminal Bremerhaven )を建設し、大型コンテナ船2隻が接岸可能な幅500m, 広さ25ha, 低潮時でも14.5mの水深を持ち、250トン以上のナセルが取扱い可能とし、年間出荷能力を倍増させたい(現在の港湾の出荷能力は160基/年であり、開発後は320基/年に倍増)と考えている。さらに現在の地方空港を跡地を開発し、さらに200haの工業用地を確保する予定である。

ブレーマーハーフェン港は、北港と南港があり、南港には、RE Power Systems AG, AREVA Wind GmbH, Weser Wind GmbH, Power Blade等の会社が集積している。北港には、コンテナターミナルや作業船、据付専門船がある。インスタレーションシップ船、ジャッキアップ船と呼ばれる、風力発電ユニットの据付専用船は、据付けに必要な部品を全て積込み、設置場所まで移動し、50m超の水深にも対応し自らを4本足で着床した上で、据付作業を開始することができる非常に重宝な専用船である。船はポーランド製で建設コストは200百万ユーロ、、トライポッドと呼ばれる着床基礎を3本まで搭載可能。これまで洋上風力発電を、北海の複数エリア(イギリス沖、オランダ沖、ドイツ沖、デンマーク沖、ベルギー沖)に設置しており、2040年までに290-470ユニットの設置を計画している。
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風力発電の研究主体は、フラウンホーファー研究所である。教育機関としては3つの大学で、風力発電事業に関する講義を実施、修士コースもある。Bremen大学は基礎、Oldendurg大学は風関連、Hannover大学はタービン関連と、研究の専門分野を分けて教えている。卒業生の半分は、風力発電産業関連に就職している。
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BH港の中にDeutsche Wind Guardという世界最大級のローターブレード用の風洞実験設備があり、最適な風の道の通り道の研究は進んでいる。
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※写真は、当方が許可をいただいた撮影したものの他、アレバ社からご提供頂いたパンフレット記載のものです。

設置にあたっては、ロジスティック(船舶会社)、メーカー、Maritime(作業員)との情報共有が重要である。漁業者とのトラブルは今のところないが、風車の回りは禁漁である。ただし設置後、かえって魚が増えているとの調査結果が出ている。 アルファベントスというエリアでは、地元のフィッシャーボートを、運搬用に50隻借り、地元漁業者との関係性は良好。

風力発電産業は、ブレーメン州に直接雇用として、洋上風力分野で3千人増、港湾全体では1.7万人増で、加えて間接的な経済効果は大きい。さらに2020年目標に更に1万人の雇用創出を予定しているとのこと。BH港への視察の受入数は、多い。最近では、韓国、米国東海岸、中国等から視察団がやってきた。

なお、船舶のドックに関しても質問したのですが、BIS社としてはノータッチ、民間に任せているとのことでした。おそらく上記のような専用船は外部から調達し、メンテナンス用の小型船は既存のもので対応していることと推察されます。

ブレーマーハーフェンの産業構造転換計画の成功要因は、この街が持っているしっかりした港湾施設と港湾立地を現状把握した上で計画を立て、賢明な地方政治による先進的なサポートが行われたこと、行政・民間双方からの十分なインフラ投資が行われたこと、そして成果が出るまでなんとしてもやり遂げる地方政府の遂行能力にあると思います。また市と、立地する民間企業の間に相互の利益を創出できたことが、最も重要な部分でしょう。
<Win-Win の関係の例>
- RE Power Systemsは、新開発の発電ユニットの実証実験のため、市政府は港湾の周辺に土地を提供 
- AREVAは、工場の拡張計画があり広い土地を希望したため、市政府は地盤沈下対策を施して土地を提供
- Weser Windは、トライポッドを工場から直ちに海に出荷可能な環境を求めたため、市政府は線路を敷設し、出荷港近くの土地を提供

PwCドイツの調査によれば、ドイツの2010年の洋上風力発電産業の売上合計5,920百万ユーロ(7,700億円)にも達しており、その中でも製造業が3,610百万ユーロ(4,700億円)と、約6割を占めています。

<PwCドイツの調査Volle Kraft aus Hochseewindは、コチラ>
http://wab.biz/atest/images/stories/PDF/studien/Volle_Kraft_aus_Hochseewind_PwC_WAB.pdf

右から、1.プロジェクト計画・プロジェクト開発、2.融資・保険、3.製造、4.運送・取り付け、5.電力網接続・6.運営・保守管理、7.廃棄・老朽風車の建替え、8.合計 です。
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雇用の面でも、ドイツの2010年の洋上風力発電産業全体の従業員は14,260人で、製造に携わる人が10,760人と全体の75%を占めています。PwCの予測は、2016年までは年間に9.3%増、2016-2021年の間は年間に6.3%増で、2021年には33,100人の雇用と見込んでいます。
2010年の保守の雇用は200人弱ですが、一度運営開始されたウィンドパークには運営に20-50人あたりが必要といわれているため、2016年の1,000人から2021年には2,300人まで増えると見込んでいます。
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欧州諸国の洋上風力発電の設備容量の増強は、2017年をピークに7GW程度を見込んでいます。その中でもGroßbritannien(英国)のシェアが大きい。これだけの規模であれば、確かに脱原発のツールのひとつといえるかもしれません。

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2021年にはドイツ全体風力発電業界の年間売上が224億ユーロ(2兆9000億円)と見込まれています。

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洋上風力発電の先進地欧州の例を踏まえた上で、日本の洋上風力発電がどこまで普及するか注目していきたいと思います。