実際の漁船に乗せて頂いて、いわきのシラス漁に参加しました。これまで、福島県の漁業は、原発事故が市場に与えている影響を考慮して自主的に操業を停止していました。魚に含まれる放射性物質の量を検査するために、週1回程度、ごく少量の検査用の魚をサンプル捕まえる以外に、漁業としての操業を自粛していました。そして復興へ向けて足を一歩先に進めるため、試験操業開始を9/1に予定していました。

しかし福島第一原発からのさらなる放射能汚染水の漏洩報道を受け、福島県地域漁業復興協議会は、9/1に予定していた試験操業開始を県沿岸全域で見送ることを決めました。延期は1ヶ月程度の期間とのことですが、めまぐるしく変わる漁業を取り巻く環境に、現場の漁師さんは困惑しています。

今回は、シラス漁のデモンストレーションという位置づけで、福島大学の学生を中心とした、スタ☆ふくのスタディツアー様が企画・実行しているものです。いわき地区船曳網漁業連絡協議会様のご協力、福島交通観光様のオペレーションにより実現しました。通常であれば、漁船に部外者を乗船させるということは、漁の邪魔かつ危険なのでありえないのですが、震災後の風評被害払拭の一助となればという漁師さんの思いで実現しました。

※試験操業:本格的に漁を始める前段階として、量は少ないものの、取った魚をいままでどおりの魚市場を通じて、一般消費者へ届けることです。
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いわきシラス漁は、四倉沖~勿来沖で8-11月ごろ行われます。漁場は近いところは水深1mくらい、深いところで水深40mくらいです。本日の漁場は港から15分くらいの場所、水深は30mくらいです。網を入れてから引き上げるまで、約20-30分くらいです。漁の具合によっては、一日に15回くらい(8回のときもあれば20回のときもある)網を入れるそうです。今回は、僚船に船曳方式でシラス漁をするデモンストレーションをやってもらい、近くに待機する他の船から見学させて頂くという形をとらせていただきました。江名港から、それぞの漁船に乗船して出港しました。

いわきのシラス漁は、船曳網で行われます。船曳網とは、船を拠点として船上に水底以外の中層または表層を使用する引寄網、または引廻網を引き揚げて漁獲する網具のことです。なおそれに対するものとして、海底の砂浜にいる魚を狙う底引網漁があります。いわきの船曳網の船は、8-11月はシラス漁に用いられますが、その後は漁具を変えて、季節ごとにタコ・サヨリ・コウナゴ等を取ります。
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スタふくのメンバーと、記念撮影。現役の漁師さん(左端)がつきっきりで、僚船が今、何をやっているか、次に何をするかを解説していただいたので、どういう手順でシラスを探して、追い込んでいくのか、知ることができました。僚船とともに魚を探し、網の位置を決めていくわけです。
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どのような漁具を使って、どんな手順で漁をしていくのか、実際の漁をしているところを見せていただきながら解説いただきます。これは漁がはじめてのわれわれにも、とても分りやすかったです。フリップを用意頂いた漁師の娘さんに感謝です。
引網:船と網をつなぐ網
袖網:魚を寄せ集める網。網目が大きい
浮き:網全体を海中に浮かせる役目
どんじり:網の先端に取り付けられる魚が漁獲される袋。網目が最も細かい。
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漁場に近くなると、各種電子機器がフル稼働します。
・魚群探知機:聴音波で、海底までの距離だけでなく、近隣に魚群がいるかどうかをカラーモニターで知らせます。3種類の聴音波を駆使することにより、魚の大きさ、魚種をも、ほぼ特定することができます。
・GPS:地上のGPSと同様、現在位置を示します。海には目標がないので、重宝です。特に、根掛かりしてしまう要注意の岩礁等の位置をGPSにメモリーさせておけば、それを回避することができます。
・レーダー:近隣の水面に他の船がいるかどうか、その大きさ、距離を把握することができます。特に夜や視界が悪いときに威力を発揮します。

驚きは装備品の価格です。上記3つの装備だけで数百万円、FRPの船本体もさらに高額、エンジンはもっと高額だそうで、総額4千万円ということも珍しくないとのこと。潮風にあたり電子機器は更新が必要でしょうし、エンジンは数千時間の運転で定期メンテナンスが必要です。そういう意味で、変動費は低いものの初期投資が非常に大きく、漁場の免許制度もあり、新規参入者にとってハードルが高い業界です。

漁場が近くなると、僚船と自船の魚探情報のやりとりをして、シラスの群れ(この時期は海底近くにいることが多い)がどの位置にいるか特定します。なぜなら魚探は船の真下の情報しか取れないため、あたりを走り回って正確にシラスのいる位置を特定する必要があるからです。もっとも、いくら情報を得て、網をいれても、必ずしも期待した成果がでるかどうかは全く別の話だそうです。
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網を入れる場所を決めたら、後は巻き上げるまで天任せです。このときの漁師さんの表情が、とても良いんです。期待と不安、自信と充実感が混じった感じといえば、いいのでしょうか。

今回は1回を網を入れただけで、3箱分のシラスが獲れました。1箱25-30kg相当とすると、100kg近い漁獲です。1回だけですが、これはなかなかない、大漁といっていいレベルだそうです。ただ同じ漁場では、魚を捕りきってしまうこともあるそうで、次の網は新たに漁場を探し始めなくてはならないこともあります。
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通常であればシラスの加工業者に近い勿来港に水揚げするのですが、今回は市場への流通が目的ではないので最寄りの沼之内港で水揚げです。現在、岸壁の修復中です。屋根がある港は少ないので、助かります。
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漁師さん総出で水揚げをします。今回は網1回分、3箱だけですが、漁師さんの充実した表情が忘れられません。シラスは(時期によりますが)500-700円/kgで取引されるそうです。とすると、1回の網で600円/kg×25kg×3箱=45,000円です。単純計算ですが、15回網を入れれば67万円となります。今日は、休漁期間が長いことや、1回しか網を入れず魚群を探す手間がなかったこと等の好条件ではありますが、船曳漁は基本的に船長と船方の2人で行うことを考えれば、高収入(の可能性がある)といって良いでしょう。なお、ボウズ(まったくお魚がかからない)の日や、時化で漁に出られない日もあるということを付け加えておきます。
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15分前まで泳いでいた、取れたてのシラスです。透明できれいです。潮の香りがして、美味しそう。なお数ヶ月前から、サンプル調査しているシラスの放射線量(ベクレル量)は検出限界値未満を続けています。にもかかわらず、(近隣の茨城産の)シラスを築地市場に持って行きセリにかけたところ、入札者ゼロ。値段がつかなかったそうです。科学的にベクレル検査ができることはやっているだけに、人の頭の中を汚染している風評被害の深さを感じます。
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今回のシラス漁には、NHKの取材が来ていて、全国版のTVニュースに放送されました。
<NHK報道は、コチラ>
私も、27-29秒の約2秒間、画面中央の黒い帽子の男として写っています。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130824/k10014004401000.html
 
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陸に上がってからは、現役の漁師さんにロープワークを教えてもらいました。教えてもらったのは、壁結びともやい結び(海軍結び)の2種類です。できあがりは同じなのですが、漁師さんによって持ち方ややり方が違うので、初心者は混乱しましたが、何とか2種類をマスターすることができました。
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難しい方のもやい結びをマスターして、私もついドヤ顔になってしまいました。もやい結びは日常生活のいろいろな場面にも応用できそうです。漁師さんはこのロープワークを10種類以上も使い分けながら(しかも迅速に大量に)、漁をするそうです。
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今回、漁船に乗せていただきシラス漁の現場を見せて頂きました。また水揚げ後のシラスがどのように価格が決まり、その後加工業者に運ばれて、流通していくかもお話いただくことができました。百聞は一見にしかずといいますが、まさにその通りだと思います。このような機会を与えて下さった関係者の皆様方に感謝いたします。

それにしても感じるのは、漁師さんの憤りです。放射線量に関する知識も新たに付け、考えられうるあらゆるベクレル検査をし、ND(検出限界値未満)を継続しているにもかかわらず、セリでは値が付かない。最終的には消費者の理解・自己責任の判断に委ねるしかないと、頭でわかっていても手のうちようがないという現状です。まずは試験操業が開始され、消費者の一定の評価が得られることを衷心から願っています。