公会計制度について、今、日本で一番先進的なのは東京都です。石原都知事が推進していた公会計制度改革路線を、猪瀬新知事が継承しています。その真意は東京都世界一の都市にしたいという、東京モデルの構築にあります。

東京都は全国に先駆け、本格的な複式簿記・発生主義会計による新公会計制度を平成18年度に導入しました。これにより、正確なストック情報やコスト情報に基づく財務諸表を作成し、事業評価を行い予算編成に活用しています。現在の東京都の新公会計制度は、日本公認会計士協会の協力を得て、日本の自治体初の会計基準となる「東京都会計基準」を策定し、本格的な複式簿記・発生主義会計を導入したものであり、次の点に資するという特徴を有しています。
1. 企業会計に準じた理解しやすい財務諸表の構成
2. 日々仕訳による正確で迅速な財務諸表の作成
3. 固定資産情報の整備による資産管理の正確性の向上
4. 財務会計システムによる複式簿記業務支援
5. 議会への報告、財務運営 

東京都の新公会計制度の導入は、国や全国の自治体に大きな影響を与えました。平成21年度には大阪府の橋下知事が都と連携して新公会計制度の導入を表明し、都も協力して準備を進め、平成24年度から本格運用を始めました。現在、東京都会計基準に準じた会計基準を策定し、都と同様の新公会計制度を採用する自治体は、大阪府の他、新潟県、愛知県、東京都町田市、大阪市、東京都江戸川区、大阪府吹田市の8団体です(平成25年6月現在、採用予定を含む)。さらに財務省も都の事例を参考に、会計処理1件ごとに仕訳を行うシステムを平成23年度から導入しました(民間企業では、当たり前過ぎますが)。

一方、全国自治体の多くは、総務省方式改訂モデルを採用し、決算組替方式※による財務諸表の作成にとどまっています(いわき市もこれに含まれます)。 これは、全国標準となる会計基準がなく、また複式簿記の導入に対する環境整備が整っていないことによります。また財務諸表(らしきもの)を作れ、という要請を受けて、その意図するところも知らされず作っているため、できた財務諸表(らしきもの)が何の役にも立っていない現状があります。本来、この問題は総務省が責任を持ってリードし解決していかなければならないものです。ただ総務省が、デメリットだけが目立つ総務省方式にこだわるなら、その考え方を東京都主導であらためて欲しいと思います。

※現在、自治体が採用している単式簿記・現金大福帳をそのまま使うモデルです。さらに追加の工数をかけて組み替えて、財務諸表らしきものを作るやり方です。現状の仕組みをそのまま使えるという利点があるものの、組み替えが入る分だけ、複式簿記の特徴である取引の追跡性が失われ、 多大かつ不毛な組み替えコストが発生するというデメリットがあります。(ドリルダウンというのですが)特定の勘定の取引を、システム上追跡できないので、(現場を知らない)全くの欠陥システムといって過言ではありません。個人的な意見ですが、そんな重複コストをかけるなら、民間企業で十分に確立されている複式簿記をそのまま導入する方が、はるかに安価かつメリットを享受することができます。

東京都は、そのような総務省の動きを待つことなく、他の先進自治体と連携し、都の新公会計制度の有効性を全国に向けて発信しています。
1. 新公会計制度普及促進連絡会議
都と同様の新公会計制度を採用する自治体とともに、新公会計制度普及促進連絡会議を立ち上げ、全国自治体へ向け、経営ツールとしての新公会計制度を紹介しています。
2. 固定資産台帳整備の指針作成
新公会計制度導入に当たっての実務的な重要論点は、固定資産台帳の整備です。特に、従前から台帳管理されてこなかった道路等のインフラ資産の取得原価が最大の課題で、この調査が自治体の大きな負担です。このため、東京都では都内の区市町村と共同で研究を進め、台帳整備を適切かつ効率的に進めるための指針である「固定資産台帳整備の基本手順」を作成、発表しています。
http://www.kaikeikanri.metro.tokyo.jp/kihontejun.pdf 

この基本手順は、都内自治体向けにインフラ資産等の価格を円滑に推計する手順を示したものですが、都外の自治体で利用する場合の補足も加えており、今後(いわき市を含む)全国の自治体で活用されていくことが期待されます。

公会計制度改革は、2000年前後から始まり、かれこれもう10年以上経ちます。もう学者や官僚の神学論争はこのへんでやめてほしい。政策決定のために役に立つ経営情報を提供するために資するシステムにしていかなければ、途方もない額の血税が、効果の薄い施策に投入されることになりかねません。


<参考>
 1 都におけるこれまでの財務諸表作成の取組とその限界 
 「機能するバランスシート」という名称で、官庁会計方式による決算数値を組み替えて財務諸表を作成
 財務諸表の作成に時間がかかる、個別事業ごとに財務諸表を作成することが困難等の限界


 2 都の新たな公会計制度の導入の取組
 

都の新たな公会計制度とは

 現行の官庁会計に、複式簿記・発生主義会計の考え方を加味   
 システムにより、日々の会計処理の段階から複式簿記の処理を行い、財務諸表を作成

 経緯

  平成14年 5月   石原都知事による複式簿記・発生主義会計導入の表明
  平成17年 8月   東京都会計基準の策定・発表
  平成18年 3月   新財務会計システムの稼働
  平成18年 4月   新公会計制度の導入

 3 都の新たな公会計制度の特徴

 東京都会計基準:行政の特質を考慮した会計基準
 新財務会計システム:複式情報の入力により自動的にデータを蓄積し、財務諸表を作成
 

       
<出典:東京都HPより>