米誌「タイム」が選ぶ「世界の100人」に選ばれた、桜井勝延 南相馬市長の著です。発刊は2012年3月で、今から約1年前ですが、これまで読む機会がありませんでした。当時は、一部の層からリーダーシップの鏡とまでいわれ、世間から非常に注目された方ですが、その後、逆に独断専行等の指摘もされたりしています。それらを踏まえた上で、読みました。

2011年3月11日の東日本大震災で、南相馬市は、いわき市以上に地震・津波・原発事故の三重苦に見舞われました。物資(特にガソリン)も情報も入らない陸の孤島状態の恐怖、被災の現場感覚に乏しい東電と政府への怒り、見えぬ敵・放射能との闘い、犠牲となった市民への鎮魂等は、いわき市が置かれた状況と同じです。ただ南相馬市の南部地域は、警戒区域を含み、かつそれらの地域の空間放射線量が原発からの至近距離に比しては高くなかった(1mSv/h程度)ことが問題をさらに複雑化していたようです。とにかくそうであっても前に進むためにこのまちが出来ることは何か、を桜井市長は常に考えます。

東京からの手助け、助け船を積極的に受け入れてきたのも事実で、太陽光発電・水耕栽培・教育施設を兼ね備えた南相馬ソーラー・アグリパーク グリーンアカデミーの誘致にも、いち早く成功しています(太陽光発電の産業発展性や雇用数については、異論ありますが)。
<南相馬ソーラー・アグリパーク グリーンアカデミーについては、コチラ>
http://www.mikito.biz/archives/23945759.html

その中で、市長自らが見てきた被災当日、その後の復興途上過程、冷ややかな政府の対応、市民たちの逆上ぶりなどを、対談形式で語りつくしています。マスコミに取り上げられることの多かった市長ですが、このような背景があっての報道内容でなく、パフォーマンスの巧拙等、表面的なものになっていたことが残念です。
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氏は、岩手大学農学部出身。学生時代は、学生運動とディベートに明け暮れた4年間。氏にいわせればその4年間は非常に密度が濃く、その後の20年間並みだったそうです。それだけ見れば「闘う市長」のタイトルをそのまま地でいくことになりそうです。

文章はいたって平易、かつあるがままの言葉で綴られています。氏の行動をそのまま賛美するものではありませんが、行動に一点の曇りもなく、芯が通っていると感じました。市職員を震災後4日間拘束し、夜も市役所に詰めて電気を点すことで、市民に安心を与えることを思いついたそうです。市役所職員の退職者が続出したのは、福島第一原発からの至近距離であることに加え、過度なストレスもあったのかもしれません。

いずれにせよ南相馬市が直面する、福島第一原発から至近距離にあるという現実は変えようがありません。市の存続に直面するという点では、大熊町等に次いで日本有数でしょう。そこに帰還したい住民のフォロー、戻りたくない住民への手当等、模範解答がない中で即決しなければならない事案が山積です。たまたま震災から2年3ヶ月たってからこの本を読みましたが、1年前なら感想はまた違ったものになるでしょう。また5年後に読んでも感想が違ったものになると思います。市長とは、首長とは、そしてその求められる資質とは、について再考させられました。 

一般的にいって、首長にはさまざまなことが期待されます。一方、完璧な人間は存在しないわけで、どこかで折り合いをつける必要があると思います。一般的にいって過去に様々な自治体の首長選挙では、個人の能力そのものよりも、選挙に強い(勝ち馬に乗りたい)、人間味がある、顔(つきあい)が広い等で、首長が選ばれてきた傾向にあるのではないでしょうか。それはそれでうまく回っていた面もあると思いますが、震災を機に本当にそれでよいのか考えさせられた方も多いと思います。独断と偏見も交えてですが、私にとって首長に求められるものの優先順位はこのように考えています。

<優先順位>
1. 判断能力、情報処理能力:与えられた情報を基に、迅速に物事を判断し、最善手を打てること
2. コミュニケーション能力・指示能力:最善手を具現化させるために、執行部等と意思疎通し情報を入手・整理し、担当者へ迅速に的確な指示を出せること
3. 企画立案能力:行政が考えるプランの2歩先を行く、既存の枠組みにとらわれない独創的な長期的プランを持てること(行政は1歩先までは考えられるが、法令遵守の縛りがあるので、そもそもブレイクスルーは期待されていない)
4. 人間味:親しまれ、信頼できる人柄であること
5. 議会折衝能力:行政が考えることを議会に説明し理解を得ること
6. 気力・体力:最終的なところは、コレ。
7. 交渉力:国、県、立地企業に対して有利な交渉を運べること
8. 対外行動力:市外に対して、市外からの視点に立って企業誘致や産品の販売等、アピールできること
9. 理論的思考:政策達成目標に向かって、必要な施策の整合性が取れていること
10. 対内行動力:市内の市民にわかりやすく、行動を示せること
11. 地域の歴史や地域風土・文化への造詣
12. 絶対的な弱者層への思いやり
13. 雑談力
<雑談力については、コチラ>
http://www.mikito.biz/archives/29058315.html
14. 透明性:特定業者との強い取引やえこひいき等がないこと 
15. リーダーシップ:人々がこのひとなら、ついて行きたいと思わせるオーラ。ただ何をもってリーダーシップというかは定義がありません
16. カリスマ:個人に対する魅力。ただ何をもって魅力というかは定義がありません

こうやって改めて考えていくと、求められる像は、企業経営者と相通じるところが多いです。企業と公とでは、当然、サービスの内容は異なりますが、組織をまとめひとつの方向に持って行くという点では全く同じです。異なるのは、企業の場合、経営者を株主もしくは役員会という、ある意味プロが経営者を選びます。一方、公の場合、選挙という形で、経営に詳しくない一般市民が選ぶという点です。ここにおいて、声の大きさや人の評判などに判断が左右されるのは仕方がありません。いずれにせよ、首長になれるのは全人格的な人かもしれませんね・・・。