星一は、いわきの偉人の一人です。当時、東洋一といわれた製薬会社を興し、ひたすら消費者便益の拡大のため奔走し、官僚や同業他社の陰湿ないじめにめげずに活動した事業家です。その生涯を、実の息子である星新一(ショートショートで有名)が書き綴った著書です。

<あらすじ>
明治末、12年間の米国留学から帰った星一は製薬会社を興した。日本で初めてモルヒネの精製に成功するなど事業は飛躍的に発展したが、星の自由な物の考え方は、保身第一の官僚たちの反感を買った。陰湿な政争に巻きこまれ、官憲の執拗きわまる妨害をうけ、会社はしだいに窮地に追いこまれる……。最後まで屈服することなく腐敗した官僚組織と闘い続けた父の姿を愛情をこめて描く。

<星一 歴史資料館は、コチラ>
http://www.mikito.biz/archives/38382203.html
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言うまでも無く星新一はショートショートの第一人者ですが、本書はそれらとは趣を変えた、星の父親を描いた一代記です。星一の事業的は、国家権力に翻弄され、結局破産してしまうのですが、それにいたるまでの、実に陰惨な官憲からの圧力によって窮地に追い込まれたことを知り、衝撃を覚えました。「人民は弱し官吏は強し」というタイトルに、無念さがにじみ出ています。現代に星製薬はなくなってしまいましたが、星一の意思を継いだ星薬科大学が残されています。なお、このような権威を嵩に着たものによる陰湿な行為とほとんど同じ事が、「海賊と呼ばれた男」(出光佐三の伝記)でも書かれています。同類同士のインナーサークルによって物事を決め、多様性を認めず異質なものを排除するのは、日本人のよくない面のひとつです。

<海賊と呼ばれた男については、コチラ>
http://www.mikito.biz/archives/27665170.html

星一と出光佐三との共通点は2つあります。一つ目は、一般消費者のためになる事業を命をかけてやってきたという点です。そして、2つ目はそれが最終的に日本国家のためになるという信念をもっていた点です。そのために、邪魔立てする官憲や利権に群がる小人には目もくれず、あるべき道を突き進みました。現代で、前者を実現している経営者はいるでしょうが、後者の信念を持つ会社・経営者はどれほどあるのでしょうか。明治人・戦前の日本人の芯の強さを再認識した次第です。
 
<参考>
先日、東京証券取引所の資料展示室を訪れた時に、星一が創設した「星製薬株式会社」の株券を発券しました。こんな場所で、星一の足跡を確認することができ、感無量です。
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