今年の本屋大賞2013を受賞した話題作だったので、買ってしまいました。本屋大賞は、新刊を扱う書店の書店員の投票のみによってノミネート作品および受賞作が決定される賞で、全国書店員が選んだ、いちばん売りたい本、といわわれています。いまだ戦争の痛手から立ち直れないでいた昭和28年、「七人の魔女」と呼ばれる強大な力を持つ国際石油メジャーと大英帝国を敵に回して、堂々と渡り合い、世界をあっと言わせた「日章丸」というタンカーがありました。その日章丸こそが、主人公である出光興産の創業者・出光佐三の船です。
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出光興産の創業者・出光佐三をモデルとした、ノンフィクション小説です。脚色はあるものの、大筋では歴史的事実に基づいているようです。北九州の異端の石油会社「国岡商店」を率いる国岡鐵造は、モーレツに働く社員によって支えられ、業界慣習にとらわれず、こちらから顧客へ瀬戸内を船で駆けつけ軽油の小売を行なったため、「海賊」と呼ばれました。しかし戦争で何もかもを失い、戦後に残ったのは借金のみでした。さらに大手卸石油会社から排斥され、売る商品もない状態が何年も続きました。しかし国岡は社員ひとりたりとも解雇せず、旧海軍の残油浚いなどで糊口をしのぎながら、理不尽なルールや権威に対し、日本を愛し何をやるべきかを考え、実行していきます。20世紀の全ての産業の根幹であり、大戦の火種となった巨大エネルギーである石油を武器に、世界のセブンシスターズと闘った男の物語です。

出光佐三の経営の根幹である、タイムカードなし、クビなし、定年なしという大家族主義(従業員は家族同然)の個人商店は、2006年まで非上場を貫き通しました。石油の小売という、まず仕入れの支払いが顧客への販売に先立ち、かつタンク等の巨額の設備投資が必要である業種特性のため、巨額の運転資金が必要になります。それを克服するために、通常は財閥系となるか、株式上場を行ない、自己資本を厚くするというのが経営の常套手段です。にもかからわず、大家族主義からいずれも行なわず(資本金10億円の過少資本)、従業員への投資、教育に経営のすべてを注いできました。その目標は、中間搾取を行なわず、大量に小売販売を展開することで、消費者の利益(経済学で言う消費者余剰)を最大化し、もっと国に貢献することです。出光佐三にいわせれば、それを自己や属する業界のために妨害するのは、「日本人でない」ということになります。

しかも、民族系石油会社として日本人による日本人のための会社として、西欧の巨大石油会社セブンシスターズからの役員、銀行からの役員すら受け入れないという、徹底したプロパー社員で構成されたプロ集団を作り上げていく道筋は感動的ですらあります。日本人としての誇りを改めて感じ入りました。

「海賊とよばれた男」が百倍面白くなる登場人物(実名対照)相関図
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【実録】忘れられていた「日章丸事件」の衝撃
―敗戦からわずか8年後、日本の小さな会社がイギリス海軍相手に戦った―
小説のクライマックス「日章丸事件」は、60年前の4月10日、日本の小さな石油会社のタンカーがイギリス海軍の海上封鎖を突破してイランに入港、世界を驚かせた大事件でした。
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『海賊とよばれた男』の主人公・国岡鐵造のモデル、出光佐三(出光興産創業者)の生涯
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