丸の内にある東京三菱UFJ銀行東京営業部のビルが取り壊され、再開発が始まっています。現在の所有者は丸の内地区の大家である三菱地所ですが、もともとは「三和銀行東京ビル」という名称で、旧三和銀行本店ビルとして長年使われてきました。三和銀行はメガバンク再編前、大手6行(東京三菱・住友・第一勧業・富士・さくら・三和)の中で唯一、地銀が母体となって都市銀行に昇格した銀行です(他はすべて財閥系)。特筆すべきは本店の住所。東京都千代田区大手町1丁目1番地1号なんです。日本一、通りが良い番地です。大手町駅からも地下で直結され(もちろんエントランスは厳重警備)、通勤には非常に便利な場所です。

三和銀行の風通しの良さ、前向きなカルチャーは、野武士集団と呼ばれ、独特の社風を持っていました。私も業務上、旧三和の方といろいろお話する機会がありましたが、他の都銀の写真とは何か違うものを感じていました。別件ですが、IFRS対応等の対応等で、同ビルの2階にある大会議室に数ヶ月通っていたこともあります。PwCの外人部隊、国内のIFRS部隊、三和の幹部の方、数百名がひとつの大会議室(というか大ホール)の同じ部屋で各チームに分かれて作業しました。どのチームも国内で経験したことがない作業内容だっただけに、高揚した雰囲気だったことが非常に強く印象に残っています。そんな中、金融庁のペナルティをきっかけに東京三菱との合併話が唐突の盛り上がり、事実上の救済合併に追い込まれてしまったことは、忸怩たる想いがあります。そういう意味で、非常に思い出あるビルの取り壊しだけに、一抹の寂しさもあります。
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<三和銀行東京ビルの概要>
竣工:1973年11月
規模:地上25階、地下4階、敷地面積8,667㎡、延床面積 94,541㎡
設計:日建設計
賞:1975年にBCS賞(Building Contractors Society)を受賞

ありし日のUFJ銀行本店(旧三和銀行本店)の姿です。コンセプトは、銀行建築は商業施設ではなく公共建築ということなだけに、重厚な作りです。面白い意匠ではありませんが、飽きの来ないオフィスビルだったと思います。
UFJ銀行本店

解体されるのは三和銀行東京ビルだけでなく。同時に南隣で隣接する、同じく三菱地所が保有する「りそなマルハビル」も解体され再開発の対象となります。22階建のA棟、29階建てのB棟の2棟が建設予定で、旧地権者の新日本石油グループも再開発に参加予定です。2016年以降に、サービスアパートメント併設の高層オフィスビルが完成する予定です。

三和銀行には、ATM設置で極めて異色な戦術をとったことがあります。当時、三和銀行は(関西の地銀出身のため)他の都銀に比べ首都圏で出店の遅れがありました。当時収益のキーは店舗数といわれておりましたが、現在のように出退店は自由にできず、いずれも大蔵省の認可が必要であったため、出店は認可まで時間がかかるし、容易ではありませんでした。そこで三和が注目したのはATM。ATMは店舗の扱いでないため、規制のタガが緩く、出店が容易でした。三和のスゴイところは、ここから。他の都銀を圧倒するためにATM出店を逆手にとります。首都圏に出店するなら、一度に山手線全駅の駅前にATMを設置するというものです。これにより、以下のような、1石2鳥の効果を得ようというのです。この戦術はあまり広報されていませんが、当時のお堅い銀行商売からすると画期的なものでした。 
 
①三和利用者にとっては、どの駅でも手数料無料で預金を引き出すことができ、便利になる。
②全駅に店舗がある都銀は他になく、当時他行利用手数料は一律100円でしたから、それを節約する層を取り込むことができる。
③駅前の好立地は限定されるので、先にATM好立地に押さえると、後からキャッチアップするであろう他の都銀の立地は劣後する
④全駅に支店(ATM)設置している都銀は他になく、他行との差別化を図れる

当然ながら、この情報が事前に漏れると他行の妨害にあい、実現できません。全駅の駅前の場所を確保するために、多数の地権者と交渉しなければなりませんので、秘匿は容易でなかったと思います。この作戦は首都圏攻略作戦として、ATMオープンまで秘匿化され、発表当日は他行幹部の度肝を抜いたといいます。まるで豊臣秀吉の墨俣一夜城物語の現代版です。そんな異色な三和銀行が好きでした。三和銀行の通帳に使われていたスヌーピーも好きでした。
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<三和銀行消滅までの経緯>
1656年  初代鴻池善右衛門が大阪で両替店を開業。
1933年 三和銀行創立
1952年  ピープルズバンクの路線明確化
2002年 三和銀行と東海銀行が合併し、株式会社UFJ銀行となる。
2005年 三菱東京フィナンシャル・グループがUFJホールディングスを事実上の救済合併。
2006年 東京三菱銀行とUFJ銀行が合併し、株式会社三菱東京UFJ銀行となる