東京電力福島復興本社を訪問し、現状を説明いただくとともに、我々の事前質問に対して質疑応答を行ないました。また実際の日常業務を現地事務所を視察しました。対応頂いたのは以下の方々です。
・福島復興本社 代表 石崎芳行氏
・企画総務部長 村永慶司氏
・いわき補償相談センター 助川一重氏
・復興推進副室長 林幹夫氏
・除染推進室グループマネージャー 阿久津信男氏

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復興本社は楢葉町の旧Jヴィレッジの建物の一室に置かれています。新聞報道では復興本社の人員規模は3,500人と報じられていますが、Jヴィレッジに勤務する東電社員は、実は企画総務部の60名のみです(原発の作業員を除く)。以下、福島復興本社3,500名の人員内訳ですが、福島市に偏在した復興本社の人員配置になっています。
・企画総務部 30名(Jヴィレッジ)
・原子力補償相談室 1,200名(福島市)
・除染推進室 190名(福島市)
・復興推進室 180名(福島市)
・福島広報部 20名(福島市)
・各事務所 約1,900名(各地域事務所)
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復興本社の取組みと、賠償、廃炉への取組み、除染作業、漏水への対応等について2時間あまりかけて説明を受け、質疑応答を行ないました。技術的なものも含めて、詳細に説明をいただきました。今回いただいた資料の多くの原典は、東電HP「原子力発電所の影響と現在の状況」にありました。「東電は情報を出さない」とマスコミの一方的なプロパガンダ報道されていますが、東電はHPを通じての外部への情報提供に相当な労力をかけていることがわかると思います。原発の直近の現状を知りたい場合、新聞等のマスコミに頼らず、自ら調べたほうが正確で尾ひれのつかない情報をとることができます。
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/outline/index-j.html
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/f1/genkyo/index-j.html
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建物は、福島第一原発のベースキャンプとなっており、作業員の方がタイベックやマスク等に着替えるための部屋等もありました。タイベック着用の休憩中の作業員の方も多数いらっしゃり、原発事故封じ込め作業のための最前線基地であることを強く感じます。無邪気な「収束」などという状態ではなく、福島第一原発(原子力規制委員会によれば、特定原子力施設)は、いまでも非常時です。最前線の封じ込め作業が失敗すれば、さらなる大惨事を引き起こす(ことが確実)ことを再認識する必要があります。事故を発生させた東京電力の責任は重大ですが、一方この非常時において、封じ込め作業進行が優先順位の第一であり、情報開示がその次、さらに誰が悪い・責任を取れ・帰還したい等は、そのまた次だと感じます。緊急医療現場において、「トリアージ」がなされますが、まさに今の福島第一原発は、いまだ緊急医療現場の綱渡りにあります。

※トリアージ:人材・資源の制約の著しい災害医療において、最善の救命効果を得るために、多数の傷病者を重症度と緊急性によって分別し、治療の優先度を決定すること。すなわち、人材・資材が豊富にある平時では最大限の労力をもって救命処置され(その結果、救命し社会復帰す)るような傷病者も、人材・資材が相対的に不足する状況では、全く処置されない(結果的に死亡する)場合があるということが特徴。

今回、冷却系統の故障や漏水発生等が発生していますが、燃料融解の避けるためのトリアージの結果、起こりうるべくして起こったのかもしれません。東京電力には最大限の復旧努力をしてもらわなければなりませんが、復旧作業は数ヶ月で終わるものでなく、数年(廃炉までは40年以上)かかるので、リスクに応じた対応をしなければ、東電経営陣のみならず現場のスタッフが疲弊してしまい、判断のミス等のさらなる人災を引き起こしてしまう可能性が高いと思います。

いまでも3,000名近くの方が、Jヴィレッジを拠点に、第一の収束にあたっています。Jヴィレッジ裏の旧サッカーコートには見渡す限りのスタッフ通勤車で埋めつくされていました。7-8割がいわきナンバーですが、関西を含む全国のナンバープレートを見ることができます。
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旧1番サッカーコート場は放置され、(駐車場にはなっていないものの)雑草が生い茂っていました。
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旧2番サッカーコート場には、地上タンクが設置されていました。福島第一では相次ぐ地下タンクからの漏水対策のため、今後も数万トン規模の地上タンクが設置される予定です。
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旧3番サッカーコート場で、空間放射線量を計測したところ、0.676マイクロシーベルト/hでした。いわき市の平均が0.1-0.2であることを考えると数倍ですが、後ほど訪れた楢葉の山林の1.0を超える空間線量に比べれば、少ない測定量でした。
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Jヴィレッジ内には、簡易コンビニや無料の診療所、食道等も併設されています。周辺に店舗がないため、作業員の方の最低限の生活物資がJヴィレッジ内で揃うようになっているようです。
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昨今の新聞報道で取り上げられている地下水の漏水問題が質疑の中心となりました。
現状:毎日400トンの地下水が地下貯水タンクに流入中で、それらは自動的に汚染される。
問題点:多核種除去設備(ALPS)という最新設備で、汚染物質を除去するが、トリチウム(重水素、放射性物質であることは間違いないが、体内に取り込まれたときどれほど人体に影響があるかは研究がなされていない)は除去できない。したがって、トリチウム入り汚染水が、毎日400トン発生し、既存タンクの容量限界に達する日は近い。
東電回答:①新規タンク増設を最大限前倒しする。②流入水を防ぐ努力をする。とにかく最大限の努力を何でもやるつもりである。
我々の疑問:①新規タンク増設には数ヶ月かかるし、年間146,000トン分(400トン×365日)のタンク増設は現実的に可能なのだろうか。②流入水を防ぐには原発地下で作業する必要があり、人手ではできない(高汚染)のでロボット作業になる。作業ロボットの技術開発には時間がかかるであろう。

また第一原発4号機に残されている使用済み燃料棒を、2013年11月を目処に比較的安全な共用プールに移送する予定だそうです。すでに共用プールは収納容量に限界が近づいている(現在収容数6,000体/容量限界6,800体)ため、共用プール内で比較的安定している燃料棒を、取り出して乾式キャスク※に入れ、陸上保管する予定とのこと。崩壊熱がちきんと下がっているのか、強い放射線量を遮るための分厚いコンクリート等の巨大な構造物を、敷地内のどこに置くのか?等いろいろな疑問が湧いてます。

※乾式キャスク:鋼鉄もしくはコンクリートの円柱状の容器に封じ込め、不活性ガスであるヘリウムガスとともに貯蔵する方式。
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(日本原子力発電株式会社HPより転載)

周辺住民を無用な不安に陥れるようなミスリードはできない一方、人的物的リソース・技術的な限界からできることとできないことがあるという二律背反した状況の中で、説明頂いた東京電力の技術スタッフからは苦悩の表情を感じました。予断できない状況とはこのような状態を指すのでしょう。東京電力に対して廃炉に向けた取組みと汚染水の海洋投棄を避けるよう求めていく一方、被害者然として無責任な批判だけでなく、同じ国土に住む一市民としてどのような前向き、建設的な支援・協力・提案できるか自問しています。
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