「私はこれからの10年で最もセクシーな職業は、統計学だろうって言い続けてるんだ」 I keep saying the sexy job in the next 10 years will be statisticians. とGoogleのチーフエコノミスト、ハル・ヴァリアン博士は、2009年に論文誌で語ったそうです。なぜ統計学が最強の学問なのか?それは、どんな権威や理論も吹き飛ばして、最善最速の解を導き出すツールとなり得るからです。そしてそれは特定の分野でなく、どんな分野にでも応用可能だからです。
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その例として、あの「マネーボール」(貧乏球団がデータ分析を重視し、プレーオフで優勝する映画)におけるセイバーメトリクスや疫学が上げられています。望むと望まざるとに関わらず、統計リテラシーがあれば、自分の経験と勘以上の判断根拠となり、強力な営業支援ツールになる可能性さえあるわけです。

統計学者でなく統計実務に携わっている著者(元大学病院勤務)だからこその視点もちりばめられています。巨額投資が必要な(最近、流行の)ビッグデータ処理をしなくても、適切なサンプリング調査で十分な解が得られる方法・ヒントも書いてあります。

ビジネスにおけるデータ分析において重要なのは、果たしてその解析はかけたコスト以上の利益を自社にもたらす判断を与えてくれるのか?です。そのためには、解析が具体的アクションをとれるように、以下の3つを満たす必要があります。
1.何かの要因が変化すれば利益が上がるのか?
2.そうした変化を起こすような行動は可能なのか?
3.変化を起こす行動が可能だとして、そのコストは利益を上回るのか?
ビッグデータを用いて役に立たない膨大な分析やグラフを作るのは意味がありません。それでは「だから、それがどうした」といわれるのがオチです。しかし「必要十分なデータ」をもとに「適切な比較」を行なえば、次のアクションをどうするかの、強力な判断・説得ツールとなりえます。それは何もビジネスに限らず、個人の意思決定にも十分使えると思います。

統計学は帰納法(個別の事例を集めて一般的な法則を導き出そうという方法)、経済学は演繹法(ある事実や仮定に基づいて、論理的推論により結論を導き出そうという方法)です。計量経済学は、ある仮定を置き、演繹的にデータを集め、その仮定を検証していきます。その意味で理論と実証をつなぐ分野であり、データの整備とITの発展で、私としては今後ますます「使える」ものになってくると確信しました。

日本全体で、ビジネス・政治・社会等に関する意思決定が、KKD(経験と勘と度胸)とその場の空気・(不毛な)議論のみで、繰り広げられている面があることを否定できません。ライフネット生命保険の出口治明社長も、数字・ファクト・ロジックで考えて議論を進めるべきとおっしゃっています。
http://careerhack.en-japan.com/report/detail/69
よりよい日本を作るためにも、科学的根拠に基づく実践(Evidence based Practice)が重要であることを再認識しました。


おまけ
<次の食べ物を禁止すべきかどうか考えてみましょう>
・心筋梗塞で死亡した日本人の95%以上が、生前この食べ物を食べていた
・強盗や殺人などの凶悪犯の70%以上が、犯行前24時間以内にこの食べ物を口にしている
・江戸時代以降日本で起こった暴動のほとんどは、この食べ物が原因である

この食べ物とは「ごはん」です。一面だけの単純集計だけ見れば「ごはんを食べることを禁止する」なんて結論づけられかねませんね。統計には仮定が重要です。数字や解析結果をどう読み解くかのリテラシーが必要ですね。自分に言い聞かせたいと思います。