これまで筆者、三橋氏の著書を複数読んできましたが、これほどのご自分の感情を吐露しているのは初めて見ました。日本経済悲観論者に対して嘲笑を通り越して呆れた!という三橋氏のスタンスです。

私自身は、著者とお会いしたことがありませんし、主義主張に直接シンパシーを感じることはありませんが、これまでの著作の根底に流れる著者の基本的ポリシー、すなわち情報の第一次ソースを入手し、自分でそれを分析・判断するという姿勢は、ぜひ積極的に真似たいです。

逆をいえば、新聞記事や雑誌の経済分析記事をさも知識人のふりをして読み、さも自分の知識のように振る舞う、またそれをあたかも自分の意見として文章にする、という浅い「自称エコノミスト」になることが恥ずかしいということです。しかしこの分類に属する方が非常に多い。この分類の方を、切り捨てたのがこの本です。切り捨てられた方は、実名で、野田佳彦、藤井裕久、河野龍太郎、竹中平蔵、白方方明、藻谷浩介、米倉弘昌、丹呉泰健、辛坊治郎、小黒一正、藤巻健史、浅井隆の方々です。
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データに基づく判断というと、すぐ「データに現れないものがある」「人の心を無視した冷たい判断になってしまう」「データの加工次第で、如何様にも数字は作れる」等の反論をよく耳にします。よく考えてみたらそうおっしゃる方の全てが、ご自分で経済統計を含む第一次データを見たことがない、もしくはデータ分析・加工をご自分自身の手で行なったことがない、経済学の本を読んだことがない方だ、ということに最近気が付きました。数字を見て、分析し、自分の腹に落ちるまで(納得するまで)、なぜかを自分の頭で考える、そういうスタイルはぜひ模倣したいと思います。

三橋氏の主張するデフレ対策すなわち、デフレギャップを埋めるために需要喚起を促す政策が、安倍首相の推進するアベノミクスと、たまたまぴったり一致しました。というか、デフレ対策の処方箋は、経済学の観点からは限られているので至極当然、という著者の意見です。結果的に安倍首相の政策を、理論的に強力に応援する内容になっています。
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なおデフレギャップとは、国内の総需要が潜在的な供給能力を上回っている状態です。なぜ1億数千万人が暮らし、一定の消費需要がある日本全体の総需要が低いのか?それはひとえに、消費の主体、家計の所得が下がり、使えるオカネが減っているからに他ありません。他にも原因はありますが、グローバル化という美名のもと、工場の海外移転を進めた結果、産業の空洞化だけでなく、労働市場も給与水準の裁定が行なわれたしまいました。その結果、日本国内の給与水準が下落し、使えるオカネも減少した結果、デフレになっている、というのが著者の主張です。

おもしろいと思ったのは、日本国は、今のいわき市と正反対の状態、すなわちいわき市はインフレギャップにあるということです。 デフレギャップは、総需要<潜在供給能力ですが、インフレギャップは、総需要>潜在供給能力です。建設需要及び消費財の需要は、市内での供給を明らかに上回っています(建設作業員のニーズは、完全に市内労働者の数を上回っていますよね)。だから日本国はアベノミクスで、財政出動+金融緩和を行なっていますが、いわき市だけを見れば、インフレギャップを埋めるために真逆の政策をとるべきかもしれません。すなわち、潜在供給能力の向上、例えば労働生産性の向上、産業のためのインフラ整備、産業を規制してる各種ルールの撤廃等です。

市の平成25年度予算は、国土強靱化計画を反映して、財政出動中心の政策となっています。それ自体は国の経済立直しのために、ポジティブに考えていますが、いわき市は今後3年間は需要過多の状態が続くと予想されますので、労働生産性等を高め積極的に生産物の付加価値を高めていくこと、老朽インフラの更新を早め産業に貢献するインフラ投資をしていくこと、産業規制ルール等の撤廃をすべきなんです。