日本人が絶対読むべき名著、「失敗の本質」(旧日本軍の戦略の失敗を正鵠に分析した本)の入門書です。失敗の本質においては、詳細な分析がなされていますが、読解するのが非常に難解。その手助けの本としてとてもイイです。私の信条でもある「戦略の失敗は、戦術で補えない」のベースでもあります。

失敗の本質は、日本が70年前に経験した大東亜戦争時の、日本の組織論を分析した本です。なぜ日本が負けたのかを、国力の差ではなく、作戦や組織による「戦い方」に視点から解説しています。なぜ負けたのかを、物量の差や一部のリーダーの誤判断のせいにして片付けることなく、そうした誤判断を許容した日本軍という組織の特性を明らかにすることで、戦後の日本の組織一般にも無批判に継承された、この国特有の組織のあり方を分析しています。

大東亜戦争における日本軍の代表的な6つの失敗作戦「ノモンハン事件」「ミッドウェー作戦」「ガダルカナル作戦」「インパール作戦」「レイテ作戦」「沖縄戦」の敗因は、一言で言えば、想定外の変化に対応できず、ゴールに到達する能力がなかったからです。そしてその背景には、日本的な思考法や日本人特有の組織論、リーダーシップにあります。

大東亜戦争時の日本軍は初期の快進撃から一転、守勢に立った後は「これまでの戦闘が通用しない」状態に大混乱し、突破口を見つけられずに敗戦となりました。日本製品(自動車、DRAM、パソコン、液晶テレビ等)が世界を席巻した成長神話の快進撃から、新しい時代に苦悩する今の日本は、失敗の本質が指摘した日本軍と同じ弱点を持っているのです。

失敗の本質では、最前線が抱える問題の深刻さを中央本部が正しく認識できず、「上から」の権威を振り回し最善策を検討しない、部署間の利害関係や責任問題のごまかしが優先され、変革を行うリーダーが不在、と日本組織の病根を指摘しています。どこかで聞いたような気がします。そうです、まさに東日本大震災直後の迷走や、その後の復興事業の対応にそのままあてはまるのです。

エッセンスを紹介します。敗戦の7つの理由は、以下のとおり。
1.戦略性
日本人は、「大きく」考えることが苦手。俯瞰的な視点から最終目標への道筋をまっすぐ作ることができない。
(例:レイテ海戦やミッドウェー海戦、南洋諸島占領では、短期的な勝利にこだわり、最終的な目標達成につながらなかった)

2.思考法
日本人は革新が苦手で、錬磨が得意。気力や精神力で達人を目指すが、創造的破壊には敗れる。
(例:インパール作戦では、既存の戦い方をしない敵軍に混乱し、白兵戦の精鋭部隊は無力化された)

3.イノベーション
日本人は自分でゲームのルールで創作することができず、既存のルールへ習熟すること目指す。
(例:航空機の戦法がベテランパイロットの1対1対決から、複数対複数機に変化。既存の必勝法は常に変化しているが、既存の戦法にこだわって失敗した。電探の価値を理解せず、成功の芽のあったレーダーの技術開発を断念させてしまった)

4.型の継承
日本人はいったん成功した型・方法に依存しがち。日本人の文化と組織には、変革イノベーションの芽をつぶしてしまう要素がある。
(例:白兵銃剣主義の時代が終わっていても、日本陸軍は既存の方針を撤回しなかった)

5.組織運営
日本人のトップは、現場活用が下手。
(例:戦闘機の運用を知らない大本営作戦司令部が、現地指揮官の意見を聞かず、ラバウル航空基地から1000kmも離れたガダルカナル島への攻撃を指示し、熟練パイロットと戦闘機を多数失った)
珊瑚海海戦後、米海軍は敗北の原因を戦闘機隊エリートのジョン・サッチ等のパイロットを直接、本国海軍航空局に呼び出し、意見を求め、「サッチ・ウィーブ」戦法を生み出した。またF4Fを製造するグラマン社のルロイ・グラマン社長自ら真珠湾に飛び、米軍パイロットにインタビューし、F6Fの量産時期を早めた。
日本人は「縄張り意識」「派閥主義」により、誰もが自分の義務と責任以外に無関心。組織全体を考える人がいなくなり、意思決定は遅れ、新たなアイデアも殺す。また重要な情報が組織内で濾過・要約されて、トップには重要な情報が届かない。いざ誰かの失敗で危機が発生した時には、最高経営者がフィルタリングされた情報しか持たず、状況を十分知っていないので、どう対処していいのか判断できなくなる。

6.リーダーシップ
日本人には、現実を直視し優れた判断を下すリーダーを選ばない土壌がある。そのリーダーは階級の上下を超えて、他者の能力を理解し、他者の視点を活用することを知らない。
(例:やる気と気合い、大言壮語を見せる者を賞賛し、リーダーに選んでいた。ノモンハン事件失敗の責任者である辻政信参謀、インパール作戦失敗の責任者である牟田口中将らは、客観的判断に誤りがあったにもかかわらず、降格されなかった。作戦の客観的評価と蓄積は軽視され、優れた判断能力は昇進の必須条件ではなくなった。ガダルカナルで、辻参謀と意見対立した、合理的な思考を持つ川口清健少将を上層部は罷免した。インパール作戦や沖縄戦で、合理的な思考から作戦に対して寄せられた指摘、問題点を上官たちはことごとく無視した)

7.メンタリティ
日本人には、「空気」の存在や、厳しい現実から目を背け、さらに危険な思考へ足を踏み外す思考が集団感染しやすい。
(例:合理的な議論を行わず、問題の全体像を一つの小さな正論から、その場のムードを染め上げてしまう。戦略的に価値のない、護衛航空機をつけない戦艦大和の沖縄特攻もそのひとつ。正しい警告を無視し、集団浅慮の状態になり、こうであってほしいという希望的観測に心理依存してしまった)

<私見>
すべて当時の分析が、現代日本にもそのままほとんどあてはまるのではないでしょうか?であれば、我々は半世紀の旧日本軍の失敗から何も学んでいないことになります。まじめな話、きちんと先達のやってきたことを理解し、これを体得し、将来に活かせないならば、靖国神社に眠る戦死者、英霊200万人に対して申し訳が立ちません。
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