「色もの」のような、本の名前に惹かれて購入しました。著者はいままで聞いたことがない人ですが、ロンドンビジネススクール(LBS)の人気若手教授だそうです。著者が調べた、世界各地で発生している、間違っている経営戦略や謝っている判断を、実例を挙げながら、経営学の基本理論を使って痛快に解き明かしていきます。訳者のスタイルもあって、口語体で軽薄な印象を与える文体ですが、内容はアカデミックでの知見と豊富な企業の調査やコンサルティングの経験に裏打ちされた内容です。紹介するトピックは、M&A、リストラ、成果主義、イノベーション、経営戦略、組織改革などです。いずれも経営学の王道とも言えるトピックだけに、経営学をかじっている読者にとっては、新たな視点を持つことができること請け合いです。
著者が選りすぐった100以上の研究が、小話としてまとめていて、「経営書」というより「ビジネスエンターテイメント本」、経営よもやま話の集積といってもよいかもしれません。経営学者やコンサルが提唱する高尚な経営手法が、実際にはほとんど役に立っていないという事実を笑って楽しむ本です。例えば、アニュアルレポートの経営戦略などは、年度末にあわてて昨年のモノを取り出して来て、適当に新しい言葉で飾り立てて今年版とするなどが、まさにそれにあたります。そして無事に発表できたら、そのまま引き出しの中にしまい込まれて、もう誰も気にしない。そのままとはいいませんが、それに近い状態である会社も相当数あると思います。
他にも、
『流行りの経営手法』は、だいたいが役に立っていない、と断言しています。しかも役に立っていないのに、その手法が世の中からなくなっていない。シックスシグマやBPR、そしてISO・・・いままで流行った経営手法は、「死に絶える前に広がるので、なくならない」という点でウィルスに似ているとのこと。例としてISOの功罪として、物事を進める最適な方法を定義するということがあります。それにより、最適からの逸脱が少なくなる、という一方、大きな逸脱がないため、同じようなものが出来上がるということになります。「ポストイット」などの革新的なイノベーションの多くは、「失敗」から生み出されており、ISOを忠実に行う限り、ポストイットはこの世に出る可能性がない、ということになります。
他にも、
・ほとんどのM&Aは失敗する
・穏やかなペースで着実に成長をした方が、爆発的に成長するよりも結果的に儲かる
・人員削減は利益を増やすどころか減らしてしまう
・不況のときはコストより売上に目を向けるべき
・経営者の「うぬぼれ病」のかかり方
・「エクセレントカンパニー」は原因と結果を逆に取り違えている
・公正な人事制度がなければ人員削減は失敗する
・ビジネスの変化の速度は実は昔も今も変わらない
・給与格差は部門業績に悪影響を及ぼす
・CSRでは儲からないが、不祥事発覚の際の保険になる
ひとつひとつのトピックはネタが面白いだけではなく、すべて裏にしっかりとした調査、エビデンスがあり、既存の経営本を批判的にみたいという人には、大きくお勧めしたいと思います。