以前からエコノミスト・政治家として非常に興味がある方でしたが、先日お目にかかる機会がありました。2010年に発行された本でしたが、一気に読み切りました。
さまざまなデータとツールを使ったクリアな分析には、おおむね80%くらい共感できました。ゴーストライターを使っては表現できない、自らの言葉で分析しているのも非常に好感が持てます。佐藤氏のような経済参謀がついたリーダーは、心強いと思います。

2010年当時の現状把握として、日米の産業構造・貿易構造の違い・金融政策の流動性の罠・デフレの国内的な原因・産業の国際分業・比較優位性・輸出特化係数・均衡為替レート・コンプライアンス不況等を取り上げています。見方が難しい論点を、経済学ツールを使って自らの主張をわかりやすく、説明しています。自分が完全に理解し自信をもっていないと、ここまで書けないと思います。

ただ佐藤氏は、日銀の為替介入に関して「アナウンス効果」の有効性を認めておらず、投機筋の空売り機会をなくすために、小口かつ複数の支店経由等を例に挙げて、覆面介入を提案しています。この主張には疑問を感じます。なぜなら佐藤氏が認めるように、巨大な為替マーケットに比べれば、日銀の数兆円程度の為替介入は量的なインパクトが小さいからです。2003年1月から2004年3月かけて行った、32兆円の大規模為替介入の失敗(介入開始前と開始後で、さらに10%円高が進行してしまった)だけをもって、日銀のオーソドックスな為替介入を否定できないと思いました。

佐藤氏は、「合成の誤謬」という経済学の用語を用いて日本経済を分析しています。ミクロ経済の世界で個人が安定志向の経済生活を送ることは、個人として適切かつ合理的な行為です(例:決まった給与の中、デフレ下で耐久財や消費財を安く買い、賢く生きる)。一方、社会全体が安定志向で消費を増やさないなら、人口減少とともに日本のマクロ経済縮小均衡に陥ります。すなわち、収入の源泉である、現在の経済のパイの大きさそのものを維持することができなくなります(これが個人の合理的行動の結果としての、合成の誤謬。簡単に言えば失敗)。
そういう現状の中では、まずはパイの縮小を食い止める成長戦略が最優先であり、縮小を食い止めた上でパイの中身を再分配するのが順序です。この立場には大賛成です。
現金給付等の「分配政策」は、縮小するパイの分かち合いで、いわば沈没しつつある船の中で分け前を取り合うような近視眼的な政策ともいえます。重要なのは、パイをいくらとりあっても船が沈没したらおしまいであるという現実を直視して、政策路線を大転換することです。

エピローグに興味がある文章があったので、一部転載します。
「私が長年住んだ欧米社会のように、企業経営者でも政治家でも、変えなければならない時は決断して変えるという、そういうひと握りのリーダーたちが地域地域に現れたならば、日本はもっとダイナミックな活力ある社会になっているだろうと感じるからです。日本にはいかすべき素晴らしいポテンシャルが沢山あります。それらを活かすも殺すもリーダーの資質次第です。有能な人材にしても、産業の技術力にしてもきめ細やかなサービス精神や想像力にしても、日本の素晴らしいポテンシャルを適切に評価でき、それをうまく活用してより高いものに仕上げていく、そういう国創りができるリーダーシップを私たち日本国民は心から望んでいるのだと思います。」
これは、昨日から読み始めた猪瀬直樹氏の著作にも共通のものを感じます。こちらも早く読み切りたい。

自らの考えをしっかりお持ちの佐藤氏は全国区選出の参議院議員ですが、自由民主党は人材の層が厚いと思います。この後、どのように活動されていくか、佐藤氏に今後も注目していきたい。

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10/27に開催された参議院議員 森まさ子国政報告会に、応援弁士としていらっしゃっていたので、ご挨拶できました。実際にお会いできたのは、読者として単純に嬉しかったです。
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